少年法の適用年令引き下げについて

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 選挙で投票できる年齢の下限が20歳から18歳に引き下げられたことを受け,少年法についても,適用年齢を20歳から18歳に引き下げようとする動きがあります。 
しかし,そのような考え方については大きな問題があります。たいていは,民法が18歳になったから一律に18歳にすべきというような安易な議論がなされているように思います。少なくとも,少年非行や更生の現状について正確な知識を持った上で議論がされるべきです。

 あまり知られていませんが,近年,少年事件は激減しています。少年事件の検挙者数は,昭和58年をピークに80%も減少しています。子どもの数が減っているから当然だろうと思われるかもしれませんが、少年人口あたりの発生数で比べても70%も減少しています。
 事件の数が減っていても,凶悪事件は増えているのではないかと思われるかもしれません。しかし,殺人や傷害致死といった重大事件についても,昭和36年のピーク時と比較して89%も減っています。少年人口あたりの発生数でも83%減っています。そもそも,少年事件の大半は,暴走族などの道交法違反,車で人身事故を起こしたときに問われる過失致傷,窃盗の3つで80%を占めており,殺人や傷害致死といった重大事件の占める割合は,わずか0.05%です。

 また,重大事件については,少年であっても成人と同様に裁判員裁判で刑事責任を問われますから,この点については,適用年齢を引き下げる意味がありません。現行法でも18歳の少年に死刑が科せられることもあるのです。

 また,成人が犯罪を犯したときは,刑事裁判で裁かれますが,少年の場合,全件が家庭裁判所に送致されます。少年が犯罪を犯したとき,刑罰を科すことで更生が期待できるものではありません。
 少年犯罪の多くは,育った環境や本人の資質に大きく帰因しています。そのため,各少年ごとに,個別の調査分析をし適切な処遇を決める必要があります。犯罪の内容によって一律に刑罰を科するのではなく,少年の立ち直りにとって最も効果的な処遇がなされるのです。そのため,成人であれば刑務所に行かないような案件でも,少年の場合少年院に送致されることがあり得るのです。
 このように綿密に鑑別・調査がなされて処遇が決定される結果,少年事件は減少を続けています。また,少年院を出院した18歳,19歳の少年の矯正施設再入率は,成人が刑務所を出所して再び入る率よりも低くなっています(少年11%程度,成人18%程度)。

 そもそも,非行少年とは,どのような少年なのでしょうか。
 各種調査によると,非行少年は,一般の少年に比べ,親から虐待されたり,学校でいじめられたり,発達障害的特徴を有するなど何らかのハンディキャップを有することが多いです。学業も芳しくないことが多く,自尊感情に乏しく,劣等感を持っており,自殺願望を有している者もいます。
 また,18歳というのは高校を卒業する時期であり,それまでは学校で何とかやってきた子も,社会に出てうまくいかない自体に直面して非行に走ってしまうこともあります。また,運転免許証を取ることができるようになりますので,不慣れな運転で事故を起こしてしまうこともあります。
 このような少年たちが,社会の中で躓いたからといって刑罰を与えてしまうと,かえって社会復帰が困難となり,健全な社会で生きていくことができなくなってしまいます。むしろ,健全な社会に引き込む努力をすべきなのです。

 そもそも,少年法の適用年齢を18歳に引き下げようとする動機は,民法が18歳にするのだから、他の法律も一律に18歳にすべきだという単純な考えが主なのではないでしょうか。
 しかし,法律というのは,それぞれ制定された趣旨が異なりますので,立法がなされた経緯や趣旨を無視して一律にすべきというのはおかしな話です。例えば,飲酒,喫煙については健康上の問題ですから,これも18歳に引き下げるというのはおかしいと思いませんか。また,民法の中でも,遺言や養子縁組の承諾は15歳からできることになっています。
 少年法の目的は,非行を犯した少年に対し,単に刑罰を与えるのではなく,個々の事情に応じて教育的な処分を行うことによって,少年が健全に成長し再び犯罪を犯さないようにすることです。民法が改正されたから一律に合わせるのではなく,少年法の固有の目的に沿って適用年齢を考えるべきなのです。わかりやすく統一することに何の意味もありません。

平成29年11月27日(月)

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弁護士宮本大祐コラム

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