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1990年、栃木県足利市で女児が行方不明になり、翌日遺体となって発見された「足利事件」。犯人として逮捕され、裁判で無期懲役刑を受けて服役していた男性が、2010年に再審において無罪判決を受けたことが大変話題となりました。
また事件当時、自白は非常に有力な証拠であるため、自白偏重の捜査が行われていたことが問題視され、取り調べの可視化などが議論されるきっかけともなりました(過去の「自白の心理学」参照)。
今回は、自白とともに重要な証拠として採用されたDNA鑑定の信憑性について考えてみようと思います。
「足利事件」と同時期に、DNA鑑定の結果が重要な証拠として採用され、有罪の判決を受けた男性が再審請求の申立てをしたという報道がありました。
申立て理由は、「足利事件」の当時最新であったDNA鑑定手法(MCT118法)における結果が有罪判決の重要な証拠とされたが、現在の最新方法(STR法)で再度鑑定したところ、犯人とは異なる可能性があるという結果が出たためであるとされています。
「足利事件」後の法務省の国会答弁によると、MCT118法の鑑定結果が有罪の決め手とされた者は8人(「足利事件」含む)とされており、今回の男性も含まれています。「足利事件」再審において鑑定の精度の低さが露呈しており、男性が犯人ではない可能性もあるものと思われます。
刑事訴訟においては、自白のみで被告人を有罪とすることは認められていません(憲法38条3項、刑事訴訟法319条2項、3項)。そのため、被告人を有罪とするためには、自白を補強するための証拠が必要とされます。これは補強法則と呼ばれ、①自白が過大評価されやすく、それによる誤判の危険性が高いこと、および、②自白偏重により、自白が強要される危険性があることなどから要求され、自白偏重を防止しようというものです。
自白偏重が防止されていたとしても、補強証拠が不正確であれば、結果的に自白が過大評価されているのと同じことになってしまいます。また、正確性を担保するため科学捜査を利用することも、科学の進歩に伴い精度が変化しうることを理解した上で慎重に採用すべきです。精度の甘い科学捜査を盲信することは、自白偏重と同様に非常に危険なことです。
確かに、DNA鑑定を含めた科学捜査が有効であることは、過去の実績などから明らかです。しかし、精度が上がったからと言って、過信は禁物です。鑑定をするのは人間ですから、手続の中で間違いが生じることも考えられます。
弁護人としては、被疑者・被告人の言うことに真摯に耳を傾け、絶対にえん罪が発生しないように、心しなければなりません。
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