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「男が痴漢になる理由」(イーストプレス)を読みました。著者の斉藤章佳氏は,依存症治療で有名な榎本クリニックで,長年,性依存症の治療に取り組んでおられる精神保健福祉士・社会福祉士です。
私も,事件処理の関係で,何度か,意見書の作成,証人の出廷をお願いしたことがあります。同氏が,痴漢の実態の解明した専門書を書かれたということで早速読んでみました。
痴漢をするような男性というと,一般的には,女性に相手をされないような暗くて陰湿な変質者を想像される方が多いと思います。しかし,実際に,私が弁護士として何人もの痴漢犯人の相談を受けてきて実感するのは,多くの痴漢犯人は,大卒,妻子持ちで,大きな会社に勤務する真面目な会社員であることが多いということです。
女性に相手されず,フラストレーションが高じて,性欲が爆発して犯行に及んでしまうという犯人像は間違いだということです。
この点を,斉藤氏は,本書で詳しく書いておられます。
多くの健全な男性には性欲があります。その意味で,すべての男性が潜在的な加害者性を備えているといえるでしょう。しかし,理性が強く作用しているうちは,性欲をコントロールすることができ,犯罪を抑制できる・・・本当にそうなのでしょうか。
実際の痴漢犯人に,犯行動機を尋ねると,仕事や対人関係でストレスを抱えており,それが犯行に結びついていることが多いです。ストレスから痴漢しました,というと,何を言っているのか,仕事でストレスを抱えない人なんていないぞ,と怒られそうですが,現実の痴漢犯人は,ストレスの対処方法を間違えて,気がついたときには痴漢行為を犯しているというメカニズムであることが多いです。
この点,斉藤氏は,痴漢の多くは勃起していない,などと表現されています。
確かに,痴漢をすることで性的に興奮し,その場で射精したり,帰宅してから自慰行為にふける痴漢犯人もいます。しかし,多くの場合,痴漢行為そのもののスリルや高揚感がストレスを解消する手段になっており,それが常習化しているのです。盗撮をしても画像をすぐに消してしまったり,妻や女性との関係も良好なのに,いったい何のためにリスクを冒して痴漢しているのだろうと思うこともあります。
痴漢が発覚した場合に失うものの大きさを考えると,とても割に合わない行動なのですが,痴漢を実行する瞬間には,そのようなリスクを一時的に忘却するか過小評価してしまい,行為に及んでしまう。これは,痴漢に限らず,窃盗症(クレプトマニア)と呼ばれる万引き依存,覚せい剤などの薬物依存など,依存症全般にみられるメカニズムです。
このような症状になってしまうと,ただ単に反省するということに,大きな意味はありません。本気で反省しても,時間が経つと,再び,再犯に及んでしまうというケースが後を絶ちません。大変残念ながら,当事務所に依頼された方の中にも,リピーターとなってしまう方も一定数いらっしゃいます。一般の民間企業でしたら,顧客がリピーターとなってくれれば当然,経営上プラスとなりますので,歓迎すべきことでしょう。しかし,刑事事件を扱う法律事務所としては,リピーターというのは決して嬉しいことではありません。私も弁護士として虚しさを感じてしまいます。
そのため,痴漢に限ったことではありませんが,私は,依存症が犯行に影響を与えていることが疑われる依頼者の方には,極力,「治療する」ことを勧めています。それも,クリニックに通院するというレベルではなく,専門医の継続的なプログラムを受けることを勧めます。依存症というのは,ワクチンを打てば一発で治るというものではありません。「継続する」ということが,最も肝要であると考えています。
残念ながら,そのような治療施設は,まだ国内にそう多くはありません。場合によっては,東京や大阪に出向かなければならないこともあります。しかし,再発するリスクを本気で考えるならば,それくらいの労力を惜しむべきではないでしょう。
本書は,このような痴漢の実態を知るために,とても示唆に富んだ書籍でした。多くの事件関係者が読むべき書籍であると思います。
以上
平成29年8月28日(月)
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