忘れられる権利とは

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 忘れられる権利とは,GoogleやYahoo!などの検索事業者に対し,インターネット上の個人情報を,検索結果から削除してもらう権利のことです。
 例えば,犯罪歴などがニュースやブログなど,ネット上に長期間掲載され続けると,就職がしづらくなったり、近所の噂になるなど,社会生活の妨げとなるため,情報の削除を求めるような場合があります。
 
 忘れられる権利が注目されるようになったのは,ヨーロッパの裁判所でネット上の削除が認められる判決が出るようになったことがきっかけです。
 平成23年11月,フランス人女性が過去に撮影したヌード写真が氏名と一緒にネット上に掲載されていたことに関し,Googleに対して削除請求を求めたところ,欧州司法裁判所がこれを認めてGoogleに対し削除命令を出しました。
 また,平成26年5月13日,スペイン人男性が社会保険料の滞納による不動産競売に関する16年前の公告について新聞社に対しwebページの削除を求めるとともに,Googleに対して検索履歴の削除を求めたところ,後者が認めらました。
 これらの判例を受けて,平成28年4月,欧州議会本会議において,EUデータ保護規則17条「忘れられる権利及び削除権」が可決され,平成30年5月施行予定となっています。

 このように,まずヨーロッパで認められた「忘れられる権利」ですが,日本ではどうでしょうか。
 
 3年前に女子高生に8000円を渡してわいせつ行為をしたという児童買春事件で50万円の罰金刑を受けた男性が,検索結果の削除を求めてGoogleを訴えた裁判所で,平成26年12月22日,さいたま地方裁判所は,「ある程度の期間が経過した後は過去の犯罪を社会から忘れられる権利を有するべきだ」として,「忘れられる権利」に言及し,Googleに対し,男性の逮捕歴の削除を命じました。

 ところが,控訴審では,本件犯行は犯罪の発生から5年程度経過しているとしてもいまだ公共の利害に関する事項である,名誉権やプライバシー権に基づく差し止め請求とは別に「忘れられる権利」を独立して判断する必要はない,などと判断して,原審の決定を却下しました。

 そして,平成29年1月31日,最高裁も,男性の逮捕歴は「公共の利害に関する」として削除を認めない決定をしました。
 まず,検索事業者による検索結果の提供は表現行為という側面があること,また,現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしていることを認定し,検索結果の提供の権利の性質,意義を認めました。
 そして,検索結果の提供が違法となるか否かの判断の規範を次のように示しました。
①当該事実の性質及び内容,
②当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,
③その者の社会的地位や影響力,
④上記記事等の目的や意義,
⑤上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,
⑥上記記事等において当該事実を記載する必要性など
諸事情を比較衡量して,事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合,削除が認められる。

 その上で,本件逮捕は,今なお「公共の利害に関する」事項であるとして削除を認めませんでした。

 男性の側からすれば,まじめに更生しようと頑張っているのに,インターネットの検索により逮捕歴が明らかになることによって,更生の妨げになっているわけですから,削除が認められてもいいようにみえます。 
 しかし,他方で,表現の自由や知る権利は民主主義の根幹に関わる権利であるため,安易に制限すべきではありません。簡単に忘れられる権利が認められてしまうと,国民が刑事事件について知る機会が制約されたり,犯罪に関する報道が自由にできなくなってしまいます。また,被害者のいる犯罪であれば,事件を風化させてほしくないという心情もあるでしょう。

 今後は,個々のケースに応じて,上記最高裁の要件に当てはめて判断していくことになろうかと思います。
 本件は,3年前に女子高生に8000円を渡してわいせつ行為をしたという児童買春事件で50万円の罰金刑を受けたというものです。確かに,女子高生にお金を渡してわいせつ行為をするというのは,たとえ被害者が合意していたとしても年少者の無知に乗じた卑劣な行為です。しかし,その刑罰は50万円の罰金であり,懲役刑に比べ比較的軽微な犯罪ということができます。地裁判決も「類型的に比較的軽微なもの」と述べています。また,男性は全く無名の一般人であり,特に社会的地位や責任の重い職業についていたという事情もないようです。粗暴な要素もなく特殊な事案でもありません。果たしてそのような事件が,事件から3年経過してもなお,国民の関心事といえるのでしょうか。
 そもそも,前科に関する情報は,検察庁の犯歴票と市町村役場の犯罪人名簿で管理されており,一般人がアクセスすることは不可能です。弁護士ですら,その情報を照会することはできません。
 そのような極めてセンシティブな情報について,いつでも誰でもどこからでも簡単にアクセスできてしまうネット上に,いつまでも晒され続けるということが,本当に国民が望んでいることなのでしょうか。すでに本人は刑罰を受けているのですから,それ以上の罰を受けるいわれはありません。インターネットの犯罪報道が,法律による刑罰を超えた,現代の晒し首ともいえる状況になってしまうことを危惧します。

 表現の自由や知る権利が重要なのはそのとおりですし,現状では,最高裁の掲げた規範が限界なのかもしれませんが,本件のような事案が「公共の利害に関する」事項だと言ってしまうと,削除が認められるケースというのは相当限られてくるように思います。
 例えば,同じ事案でも,10年以上経ってからであれば認められるかもしれませんが,そのあたりの相場観は今後の判例の蓄積を待つしかありません。

平成29年12月7日(木)

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弁護士宮本大祐コラム

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