発達障害と犯罪

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 刑事裁判の中で,刑を軽くするために,発達障害が犯行に与えた影響について主張されることがあります。特に,少年事件においてその傾向が強いように思います。そのような主張が乱発されたからか,特にアスペルガー症候群という病名が広く知られることとなりました。

 果たして,発達障害と犯罪は関係あるのでしょうか。
 『発達障害』文春新書・岩波明著を読みながら解説してみます。

 まず,発達障害とは何か?
 著者によると,「一般に「発達障害」とは,アスペルガー症候群を中心とする自閉症スペクトラム障害(ASD),注意欠陥多動性障害(ADHD)などを漠然と指している。注意すべきは,「発達障害」という病名は総称であり,個別の疾患ではない点である。」「DSM-5においては,「アスペルガー症候群(アスペルガー障害)」という用語は使用されなくなり,「ASDの一部」と変更された点に注意する必要がある。ASDは,従来の自閉症(自閉性障害),アスペルガー症候群など自閉症の関連疾患を包括する概念となっている。ASDは,以前の診断基準で用いられた広汎性発達障害とほぼ同義である。
 またスペクトラムとは聞きなれない言葉だが,「連続体」という意味である。つまり,ごく軽症の人から重症の人まで,様々なレベルの状態の人が広汎に分布しているという意味である。」とあります。

 発達障害の中心的な疾患は,ASDとADHDということになりますが,「一見すると,ASDとADHDはまったく異なる症状を持っている。これまで述べてきたように,ASDの中心的な症状は「対人関係の障害」と「常同的な行動パターン」であり,ADHDは,「多動・衝動性」と「不注意」であるからだ。」ということになります。

 また,「さらに一般の人の誤解を深めているのが,「成人の発達障害」という言い回しである。これは正しく述べるなら,「成人期に達した発達障害の患者(当事者)」を示す言葉である。発達障害は生まれつきのものであり,成人になってから発症するものではない。」という点もおさえておくべきでしょう。

 さて,「ASDというだけで犯罪傾向が高いと決めつける主張は明らかに間違っているが,ASDの人の犯罪が奇妙で常識的な理解から外れていることは少なからずみられる。」「ASDにおいては,年齢に応じた社会性や共感性が獲得できていないことが多く,日常生活においては,常識的な対応ができないことによって社会の様々な場面で困難な状況を呈しやすい。犯行の内容についても,常識的な動機ではなく,独自の思考過程やこだわりが原因となることも少なくない。」
 そのため,「不可解な犯罪=アスペルガー症候群によるもの」という誤解が広まったのでしょう。

 「児童精神科医である十一元三京都大学教授は,ASDと犯罪の関係について,犯罪の動機を以下のようにパターン分けしている。
①  社会性・コミュニケーションの障害の影響により社会規範意識がほとんど形成されておらず,
 興味に導かれたり,他者の教唆によって非行に該当する行動に及ぶもの
②  自閉症スペクトラム障害にみられる随伴特性の中の,パニックが社会的問題行動と関連するも
 の
③  障害を背景として本人にトラウマ的記憶が形成され,これを連想させる事柄に出会ったことか
 ら不穏やパニックに陥り事件化するもの(二次災害型)
④  精神科的合併症・併存障害の影響によるもの
⑤  成人になり密度の高い対人状況に適応できず困惑状態に置かれ,反社会的行動を起こすもの
 
 これらの中で,ASDの特徴がよく表れているものとして,①と②があげられる。③については,日常臨床の現場においても,しばしばみられる。これは,パニック障害にみられるパニック発作とは異なり,状況に適応できずに突然陥る混乱状態を意味する。」

 2004年,長崎県佐世保市の公立小学校で,6年生の女子児童が同級生の少女にカッターナイフで切りつけられて殺害された事件がありました。この事件でも,アスペルガー症候群という病名が主張されたため,マスコミは「不可解な犯罪=アスペルガー症候群によるもの」という理解をしようとしました。しかし,著者は,さほど珍しくない子どもの「暴発」によるものと述べています。

 「実はこうした子どもによる殺人事件は,過去には頻繁に起きていた。「少年犯罪データベース」および『戦前の少年犯罪』(管賀江留郎,築地書館)によれば,少年による殺人事件は,戦後は一時期年間300~400件にも及んでいた(最近は50~100件程度)。その多くは,衝動的,短絡的な殺人事件であるが,小学生による殺人事件も珍しくはなかった。」

 「過去の研究においては,ASD,及びADHDの犯罪率については,一般の人より高率であるという報告と,ほぼ同等であるというものがあり,明確な結論は得られていない。」

 発達障害と犯罪が結びつけられるとき,健常な一般人には理解できない犯罪だから,きっと発達障害の影響に違いない,と短絡的に結論づけてしまっていることが多いです。しかし,確かに発達障害が事件に影響を与えているケースもありますが,発達障害だから犯罪を犯す,というように,安易に理解して偏見を助長するようなことがあってはなりません。そもそも発達障害という言葉の意味すら正確に理解されておらず,専門医でも明確に診断できるわけではないのです。
 近年,いろいろな場面で,発達障害という言葉を耳にしますが,使い方を誤ると,近いうちに差別用語リスト入りとなってしまうことでしょう。

2017年9月29日(金)

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弁護士宮本大祐コラム

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