性犯罪の厳罰化について

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 法務大臣の諮問機関である法制審議会が法務大臣に対して,性犯罪に関する刑法の改正について答申をしました。
 主な内容は次の4点です。

1 法定刑の引き上げ(強姦罪の懲役の下限を3年から5年へ)
2 強姦罪について男性も被害者とする
3 監護者がわいせつ行為をした場合に強姦罪等に問うことができる
4 被害者の告訴がなくとも裁判にすることができる

 強姦罪の法定刑は,従前,懲役3年以上とされてきました。これが強盗罪の場合,懲役5年以上とされているのに比較して軽すぎると批判されていました。そのため改正案では,下限を5年とするように答申されました。
 強姦罪等の性犯罪は,被害者の心身に深刻なダメージを与え,人格や尊厳を蹂躙する極めて悪質な犯罪です。
 しかしながら,今回の改正案では,強姦罪について,従来の膣内に陰茎を挿入する姦淫だけでなく,肛門性交や口腔性交についても「性交等」とした上で,強姦罪に該当することになっています。肛門性交や口腔性交については,従来は,強制わいせつ罪で処罰されていたものです。
 これらの行為が,被害者に深刻なダメージを与えることは理解できますが,行為態様によっては,「姦淫」よりも,程度が重くないケースも想定されます。そのような比較的軽い行為についても,当然に強姦罪とされ,しかも,法定刑が引き上げられるというのは問題があります。
 
 次に強姦罪について男性をも被害者とすることについてですが,従前は「姦淫」の態様が男性器を女性器に挿入することに限られていました。ところが,男性器を男性の肛門や口腔に挿入したような場合も強姦罪で処罰できるように提案されています。
 これは,男性であっても,そのような態様で身体的接触を強いられた場合には,従前の「姦淫」と同程度の性的自由の侵害があると判断されたからです。
 この点については,「姦淫」と異なり,妊娠のリスクがないため,法益侵害の程度が異なるのではないかという問題があります。

 次に,監護者によるわいせつ行為についてですが,これは従前,児童福祉法違反として処罰されていました。強姦罪よりも法定刑が軽い犯罪です。
 しかし,親子間における性交は,継続的な性虐待など,強姦罪と同等の悪質性があるケースが多いにもかかわらず,必ずしも暴行脅迫を伴っておらず,強姦罪として立件することが困難なことがありました。そのため,このような改正をすること自体は否定されるものではありません。
 もっとも,改正案では「影響力があることに乗じて」という文言がありますが,どのような場合に「影響力があることに乗じた」といえるのか不明確であるという問題があります。また,被監護者の同意がある場合にも処罰の対象とするのは,国が個人の性的自由に過度に干渉するものといえるため問題があります。
 
 最後に,被害者の告訴がなくても裁判にすることができるように提案がされています。
強姦罪や強制わいせつ罪は,親告罪と言って,被害者の告訴がないと裁判をすることができませんでした。これは,裁判をすることで被害者の名誉やプライバシーが侵害されるおそれがあるため,被害者に選択を委ねたものです。
 しかしながら,心身ともに甚大な被害にあったばかりの被害者に,犯人を処罰するか否かの選択をさせるのも酷であるともいえます。そのため,被害者の告訴がなくても,国の責任で犯人を処罰でいきるように非親告罪とすべきだとする意見があるのです。
 しかしながら,被害者の意思を無視して裁判をしてしまうと,処罰を望まなくても,裁判に証人として出廷しなければならなくなることもあり,かえって被害者に負担をかけてしまうのではないかという問題もあります。

 このように,性犯罪の厳罰化など,さまざまな提案がされていますが,考慮すべき点が多岐に亘っているため,慎重に議論していく必要があります。

平成28年9月30日(金)

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弁護士宮本大祐コラム

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