『入門 犯罪心理学』 著者 原田隆之  ちくま新書

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 原田隆之氏著の「入門 犯罪心理学」を読みました。
 時代遅れな心理検査や,経験や臨床的な勘に頼る臨床判断を批判し,科学的な検証による効果が実証された心理療法を実践すべきというようなことが述べられています。そして,著者によると,現状では,認知行動療法が,犯罪抑止に最も効果があると実証されているということでした。以下,気になったところを抜粋してみました。

・ 日本の心理学の教科書を見れば、とうの昔に否定されているカビの生えたような理論について延々と解説がなされており、その内容は私が大学生のときとほとんど変わっていない。これでは学生がかわいそうだ。
 具体的な一例を挙げれば、インクのシミで性格判断をするというロールシャッハテストは、今でもわが国で大きな人気のある心理検査であり、日本の臨床心理士を養成する大学院であれば必ず教えている。
 しかし、私が留学したアメリカの大学院ではまったく教えていなかった。これは、その大学院が特殊なのではない。なぜなら、ロールシャッハテストは性格診断には役に立たないということが、一九七〇年代以降多くの研究で実証されており、それを支持するデータが次々と蓄積されているからだ。しかし、日本の大学や大学院では、ロールシャッハテストをはじめとする多くの間違った理論や技法が、いまだに教科書に記載され続けており、気の毒なことに学生はそれを教え込まれている。

・ アンドリュースとボンタは、犯罪心理学で用いられるリスクアセスメントのツールを、時代を追って第一世代から第四世代まで、四種類に分類している。
 第一世代のツールは、専門家の臨床判断である。これは特別な用具を用いず、専門家が自らの経験や臨床的な勘を頼りに、犯罪者のリスクを診断するものである。あるいは、何らかの検査を行ったとしても、最終的な結論は専門家の主観によって診断を下す場合もある。
 しかし、これまでも繰り返し強調してきたように、いくら専門家とはいえ、こうした主観的判断に頼ることは危険である。「刑事の勘」が悲惨な冤罪事件を招いたように、この場合も誤った判断をしてしまう可能性が大きいからだ。専門家の臨床判断が、いかに誤りが多く、当てにならないものかは、多くの研究によって実証されている。

・ リプセイのメタアナリシスでわかったことを簡単にまとまると、以下のようになる。
1 処罰は再犯リスクを抑制しない
 拘禁や保護観察などの刑事司法手続きだけでは再犯率は低下させることができず、むしろわずか(およそ数パーセント)ではあるが上昇させてしまう。また、方法によっては二〇%以上も再犯率を高めてしまうものもある。
2 治療は確実に再犯率を低下させる
 犯罪者に心理療法などの治療を行った場合は、再犯率がおよそ五〇%低下する。何の治療も実施しなかった場合の平均再犯率が六五%であったのに対し、適切な治療を実施した場合の平均再犯率は三五%だった。
3 治療の種類によって効果が異なる
 2で述べた「適切な治療」とは、行動療法や認知行動療法などの行動科学に基づいた治療法である。一方、それ以外の心理療法(精神分析、パーソンセンタード・セラピーなど)は、再犯抑制にほとんど効果がなかった。
また、刑務所など拘禁下での治療よりも、社会内での治療のほうがより効果がある。

・ こうした科学的な検証の結果、効果がはっきりと実証された治療アプローチの共通点から、三つの原則が導き出された。アンドリュースとボンタは、これを治療三原則、またはその頭文字を取ってRNR原則と名付けた。最初のRはリスク(Risk)、Nはニーズ(Need)、そして最後のRはレスポンシビティ(Responsivity)である。日本語ではそれぞれ、危険性、必要性、反応性となる。

・ 最後に残った認知行動療法のみが、犯罪抑止に効果が実証されている心理療法である。アンドリュースとボンタも、反応性原則について説明する中で、「単純に言えば、認知行動療法を行うことだ」と述べている。

・ とはいえ、「刑事収容施設法」に伴って次々に導入されている新たな特別改善指導では、認知行動療法が採用されている。性犯罪者再犯防止プログラムも薬物依存症の治療プログラムも、いずれも認知行動療法に基づいて開発されたものである。
平成29年11月17日

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弁護士宮本大祐コラム

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